物流DXとは？業界が直面する課題と背景、解決策などをていねいに解説

物流業界では、人手不足や配送コストの増加、2024年問題といった課題が深刻化しています。これらの課題を解決する鍵として注目されているのが「物流DX」です。デジタル技術を活用して業務を効率化し、競争力を高める物流DXは、業界全体の変革を促す重要な取り組みです。

本記事では、物流DXの定義や業界が直面する課題、具体的な進め方、さらには成功事例を通じて、物流DXを成功に導くヒントをお届けします。

1.物流DXとは？

はじめに物流DXの定義と、今の物流業界が抱える課題などを紹介します。

物流DXの定義

国土交通省は、物流DXを「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」と定義しています。つまり、物流業界における課題を解決し、業務全体の効率化や競争力の向上を目指す活動といえるでしょう。

DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、経済産業省によると「デジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、データやデジタル技術を使って顧客目線で新たな価値を創出すること」を指します。つまり、単なる業務の効率化にとどまらず、ビジネスモデルやシステム全体を革新し、企業全体の付加価値を高めることがDXの本質です。

近年では、DXの必要性があらゆる業界で高まっており、物流業界も例外ではありません。特に、人手不足や配送コストの上昇といった、物流特有の問題が深刻化しているなかで、物流DXはこれらの課題を解決するための重要なキーワードとなっています。

※参考：
物流DXについて（国土交通省）
デジタルガバナンス・コード実践の手引き（要約版／経済産業省）

物流DXは、業界が抱える課題の解決につながる

物流業界では2024年問題や人手不足、配送コストの上昇といった課題が深刻化しており、これらを解決する手段としても物流DXは注目されています。

物流業界における代表的な課題は以下です。

2024年問題

2024年4月から働き方改革関連法が適用され、トラックドライバーの年間時間外労働が960時間に制限されるようになりました。この規制に違反した企業には厳しい罰則が科されるため、多くの企業が対応を迫られている状況です。
また、規制の影響によりトラック輸送能力が減少し、輸送費用の上昇や物流サービスの低下が懸念されています。さらに、ドライバー不足が一層深刻化することで、配送スケジュールの遅延や対応力の低下が業界全体に影響を及ぼすおそれがあります。

人手不足の深刻化

物流業界では、トラックドライバーの高齢化が進行しており、若年層の労働力確保が難しい状況です。さらに、長時間労働や厳しい労働環境が要因となり、人材が業界を離れる傾向が強まっています。
この結果、必要な人員を確保できず、配送業務が滞りスケジュールの遅延が頻発するなど、業務の効率が著しく低下しています。

配送コストの上昇

燃料費や車両維持費の増加が物流業界の経営を圧迫しています。人手不足による人件費の高騰も加わり、コストの増大が避けられない状況です。加えて、輸送効率の悪さが無駄なコストを生み出し、物流プロセス全体の管理に悪影響を与えています。

物流DXとはプロセス全体や組織、ビジネスモデルを変革する取り組み

政府の定義をわかりやすく言い換えると、物流DXとは、IoTやAI、ビッグデータ、クラウドといったデジタル技術を業務に導入し、効率化や課題解決を図るだけではなく、企業全体の競争力を向上させるためのアプローチです。
上記のような課題の解決にも大きく貢献すると言われています。

2.物流DXの3つのステップ

物流DXの目的は、物流業界が抱える課題を解決し、新たな価値を創出することにあります。
ただし、いきなりビジネスモデル全体を変革することは現実的ではありません。

DXを実現するために、以下の3段階のステップが提唱されています。

第1ステップ：「デジタイゼーション」情報のデジタル化

最初の段階では、物流業界でアナログ作業をデジタルデータに変換する取り組みを進めます。具体的には、手書き伝票や紙の記録を電子化し、データとして管理することで、業務効率を向上させる基盤を整えます。このプロセスにより、データの共有や検索が容易となり、ミスを減らすと同時に、作業時間の短縮が期待できます。

第2ステップ：「デジタライゼーション」業務のデジタル活用

次に、デジタルデータを活用して物流業務の効率化を図ります。このステップでは、倉庫管理システム（WMS）や輸送管理システム（TMS）の導入が重要です。これにより、在庫管理や配送ルートの最適化が可能となり、データに基づいた意思決定が実現します。このプロセスを通じて、物流業務全体の効率化が大幅に進むとともに、コスト削減にも寄与します。

第3ステップ：「デジタルトランスフォーメーション」企業全体の変革

最終段階では、デジタル技術を企業全体で活用し、競争力を強化します。物流システムだけではなく、サプライチェーン全体の統合的な管理を目指すことが重要です。

さらに、他社との連携を強化し、業界全体での効率化を図ることで、より大きな価値を生み出せるでしょう。物流業務の枠を超えた変革により、顧客起点で新たな価値を提供できるようになります。

段階を踏むことの重要性

これら3つのステップは、順を追って進めることが重要です。まず「デジタイゼーション」によって特定の部門やプロセスでアナログ作業をデジタル化し、次に「デジタライゼーション」でその範囲を拡大します。そして「デジタルトランスフォーメーション」によって、企業全体での変革を実現し、物流業界全体の課題解決と持続的な成長を目指します。

3.物流DXの取り組み例

物流DXは、物流業界が抱える課題を解決するための有力な手段です。本章では、物流DXの成功事例をいくつか取り上げ、それぞれの取り組み内容と成果を紹介します。これらの事例を参考に、自社での応用のヒントを見つけてください。

倉庫のデジタル化の事例：バース予約・受付システムで待機時間を短縮

物流の集中により、倉庫での積み下ろし待ち時間が長くなり、ドライバーに負担がかかるとともに、近隣住民への迷惑も問題視されていました。

この課題に対し、携帯電話と連動したバース予約システムを導入しました。ドライバーには接車の順番が近づくと通知が送られ、スムーズな対応が可能となります。その結果、ドライバーの待機時間が大幅に短縮され、倉庫内での物流効率が向上しました。

倉庫の自動化・機械化の事例：荷下ろしロボットの導入

多品種のケース商品を扱う現場では、手作業での荷下ろしに多大な時間と労力を要していました。この課題を解決するため、荷下ろしロボットを導入。ロボットが複数品種のケースを自動的に処理することで、作業時間を大幅に短縮するとともに、労働負担を軽減することに成功しました。

倉庫のデジタル化・自動化・機械化の事例：RFIDを活用した生産性向上

手作業で行われていた検品や仕分けは、非効率的でミスが多発していました。この問題に対し、RFID（無線タグ）を活用したシステムを導入。この対応により、入出荷時の検品や仕分けが自動化され、人的ミスが削減されただけでなく、業務全体の生産性が向上しました。

配送のデジタル化の事例：AI点呼ロボットの導入

運行管理者への負担が大きい点呼業務において、労働環境の改善が課題でした。そこで、AIを活用した点呼ロボットを導入し、運行前後の確認作業を自動化しました。その結果、管理者の業務負担が軽減されると同時に、点呼業務の効率化も実現しています。

配送の自動化・機械化の事例：ドローンを活用した商用サービス

過疎地域では物流の維持が困難であり、住民の生活にも影響が及んでいました。こうした課題に対し、ドローンを活用した商用配送サービスが開始されました。これにより効率的な配送が実現し、過疎地の住民を支援するとともに、物流効率の向上にも寄与しています。

物流DXは、物流業界の課題を解決し、業務効率化と競争力向上を実現する重要な取り組みです。本記事では、物流DXの定義や3つのステップ、具体的な事例を通じて、その効果と実践方法を解説しました。段階的な導入とデータ活用を通じて、自社の課題に適したDXを進め、未来の物流業界での競争力を確保しましょう。