求めたのは「電話代行」ではなく業務改革。年間10万着電の東急社宅マネジメントが挑む、人的資本を最大化する「デジタル・ファースト」への転換
約69,000戸(※2026年3月末時点)の社宅管理を手がける東急社宅マネジメント株式会社。企業の社宅運用に関する幅広い業務をワンストップで提供する同社には、年間10万件を超える電話が寄せられています。
しかし、かつての同社では、繁忙期に60名規模の派遣スタッフを動員する『人海戦術』が常態化し、電話対応による業務の断片化と担当者の精神的負荷が深刻な経営課題となっていました。同社はいかにしてこのレガシーな体制を脱却し、受電工数9割削減という劇的な転換を成し遂げたのか。
本記事では、東急社宅マネジメント 事業統括部の後藤さんにインタビューを実施。繁忙期に不可欠だった『人海戦術』から脱却し、労働力不足リスクをアイブリーで解消した軌跡を伺いました。
アイブリー導入の成果サマリー
- 受電業務の構造改革と人的リソースの再配分:全14回線にAI受付を一括導入し、お問い合わせ内容に応じた自動分類・適切な部署への即時連携を実現。一次受付の90%超の自動化を実現し、担当者が受電に拘束される時間を月間800時間超削減。付加価値の高い業務にリソースを集中できる体制を構築。
- 電話対応のブラックボックス解消とデータドリブンな改善サイクルの確立:これまで「感覚値」に依存していた受電件数・問い合わせカテゴリ・対応状況をデータとして可視化。頻出する定型質問を音声ガイダンスへ誘導し、取次件数の削減と対応品質の標準化を推進。
- 属人化の解消によるチーム運営の安定化:AI一次対応と案件振り分けにより、特定スタッフへの業務集中を解消。複数クライアント専任チーム体制における業務量の均等化を実現し、担当者の精神的負荷も大幅に軽減。
「電話対応が当たり前」という文化が、DX推進の壁になっていた
東急社宅マネジメントは、借上社宅をはじめ、社有社宅・寮、駐車場、事務所、店舗、倉庫など、幅広い不動産の管理および代行業務を展開しています。企業の社宅運用に関わる多岐にわたる業務をワンストップで提供し、手続きの効率化・標準化・スピード向上を実現する社宅管理システム「TORUS」の提供など、DX推進にも積極的に取り組んでいます。
しかし、同社には長年にわたる課題がありました。年間約10万件に及ぶ着電。そのうち9割以上が、契約内容や各種手続きに関するお問い合わせです。
「繁忙期には受電数が大幅に増加するため、電話対応によって本来の業務が何度も中断されてしまうのが課題でした。担当者が仕事に集中できず、生産性の低下を招いていたのです」(後藤さん)
転勤シーズンである1月から3月にかけてはお問い合わせが急増し、常に電話が鳴り続ける時間帯が発生するほどでした。業務が断片化し、担当者の精神的な負担も大きくなっていました。加えて、受電件数の実態が可視化されておらず、現場の「感覚値」に依存した運営を余儀なくされていたことも大きな問題でした。
「誰がどれだけ電話対応をしているのか把握しづらく、結果として業務負荷に偏りが生じやすい体制になっていました。また、一次対応でどこまで案内すべきかの線引きも曖昧で、対応範囲の判断が担当者任せになりやすいなど、属人化が避けられない状況もありました。
突発的な電話対応による『業務の断片化』が常態化し、組織全体の生産性を著しく阻害していました。労働集約的なオペレーションは、担当者の心理的余裕を奪うだけでなく、教育やオペレーションの標準化が進みにくいという構造的な課題を抱えていたのです」(後藤さん)
求めたのは単なる「電話代行」ではなく業務改革
導入を検討したきっかけには、意外な原体験がありました。
「コロナ禍では出社制限により在宅勤務が推進され、営業時間を短縮したことで、電話対応に充てていた時間を作業に回せたという経験がありました。しかし通常運用に戻ると、再び繁忙期の業務と電話対応が同時進行となり、効率性や生産性の確保が大きな課題として浮き彫りになりました」(後藤さん)
電話から一時的に解放された時間が、いかに業務を前に進める力になるか。現場はそれを身をもって体感していたのです。
「当社の業務特性上、『電話での対応が当たり前』という文化が根強く残っており、そのことが業務効率化やDX推進の妨げにもなっていました。単なる『電話代行』ではなく、業務効率化・DX推進・顧客体験向上のすべてを同時に実現できる解決策を探していました」(後藤さん)

繁忙期まで3カ月。スピード導入の決断
アイブリーとの出会いは、電話対応に特化したソリューションを探す中で、アイブリーのWebサイトを見つけたことがきっかけでした。
導入を検討した当時、繁忙期となる1月まで残り3カ月。スピード感を持って体制を整える必要がありました。
「比較検討の際に決め手となったのは、コスト面、導入までのスピード、そして現場主導で設定変更が可能な『アジリティ』でした。ノーコードで即時運用可能なアイブリーの操作性が、変化の激しい現場を支える基盤になると判断しました」(後藤さん)
決め手は明確でした。限られた期間でスムーズに導入できるスピード感と、シンプルなUI。そして受電件数が非常に多い同社にとって、アイブリーの導入によるコスト面での費用対効果が見込めたことです。
一部回線ではなく、全回線での統一導入を選択
当初は、繁忙期に増える受電量に対応するため、一部回線をAI受付に切り替える想定で検討を進めていました。しかし、プロジェクトを推進する中で、全回線での導入という判断に至ります。
「実際にはお問い合わせ内容が多岐にわたることや、有人対応とAI対応を分けた場合、お客様へのサービス提供にばらつきが生まれる懸念がありました。サービス品質を一定に保ちながら効率化を実現するには、全回線でAI受付を統一する方が効果的であると判断しました」(後藤さん)
こうして同社は、担当顧客ごとに分割されたチーム単位ごとにアカウントを導入。全社180名を対象とした説明会を実施し、2025年1月に本運用を開始しました。
アイブリー活用イメージ
アイブリーの導入により、同社の電話対応フローは大きく変わりました。

「アイブリーの分岐機能を積極的に活用し、お問い合わせ内容を細かく分類したうえで、適切な専任部署へTeams経由で自動連携・共有しています。業務が効率化するとともに、受動的だった電話対応が『情報の事前把握に基づいた能動的な顧客コミュニケーション』の機会に変化しました」(後藤さん)
「電話が鳴らない」現場に喜ばれる人的資本の再配置
導入後、最も大きな変化は何だったのか。後藤さんが真っ先に挙げたのは、「精神的な負荷の軽減」でした。
「繁忙期に常に鳴り続けていた電話から解放され、担当者のストレスが大きく軽減されました。受電工数の90%削減というPLへの直接的な貢献に加え、嬉しい成果は『現場に喜ばれる人的リソースの最適配置』が可能になったことです。電話の割り込みによる中断が解消されたことで、社員が本来向き合うべきコア業務に純度高く集中できる環境を構築できました」(後藤さん)
実際にその効果は定量的な数値としても表れており、一次受付の90%超の自動化を実現し、担当者が受電に拘束される時間を月間800時間超削減することに成功しています。
これまで「いつ電話がかかってくるかわからない」という状況で業務が中断されるストレスは、目に見えないコストとして組織全体にのしかかっていました。アイブリー導入後は、AIが一次対応で必要な情報を事前に取得してくれるため、担当者は落ち着いた状態で、内容を把握してから能動的に架電できるようになり、その結果顧客体験も更に良くなるという好循環が生まれています。
対応業務の偏りを解消。チーム運営の安定化にも貢献
社宅管理業務では、複数のクライアント企業を専任チームで担当しているため、チーム間・メンバー間の業務量のバランスが運営に大きく影響します。
AIによる一次対応と案件振り分けを活用することで、業務内容の細分化を図り、お客様からの問い合わせに対応しています。これにより、業務の安定化に向けた取り組みを進めています。
「ブラックボックス」だった電話対応がデータに変わった
もう一つ、導入がもたらした大きな変化があります。電話対応の「可視化」です。
「どのカテゴリのお問い合わせが多いのか」「どのような質問が繰り返し発生しているのか」これまで見えなかった情報が、データとして把握できるようになりました。
「お問い合わせ内容を分類し、頻出する固定的な質問については音声ガイダンスで案内するなど、適切に仕分けたうえで最適な対応へ誘導できる改善サイクルが生まれました。その結果、担当者への取次件数を減らすことができ、受電対応の効率化と負荷の平準化につながっています」(後藤さん)
受電件数が「感覚値」だった時代から、データに基づいて改善を回せる時代へ。この変化は、DXを推進する同社にとって、電話業務にとどまらない意味を持つものでした。
AI対応への抵抗感は、時代とともに変化した
導入当初、現場には懸念もありました。発信者の多くは社宅の入居者や不動産会社の担当者。AI対応への抵抗感はなかったのでしょうか。
「導入当初は、AIへの抵抗感や『有人ではない』という点への不安から、AI対応そのものを受け入れていただくことが難しい場面も多く、お叱りをいただくケースもありました」(後藤さん)
しかし、この状況は急速に変化したといいます。
「この数年で『顧客サービス=有人対応』という従来の考え方が市場全体で大きく変化しました。AI導入の普及スピードや技術の進化によって、お客様の認識も大きく変わり、現在ではAI対応そのものが自然な選択肢として受け入れられるようになっています。AI対応に関するクレームは大幅に減少しており、スムーズにご利用いただけるケースが着実に増えています」(後藤さん)
年間10万件の音声データを、サービス向上の資産に変える
同社が今後見据えるのは、蓄積された音声データの活用です。
「これまで蓄積してきた年間約10万件の音声データを活用し、お客様へのサービス向上につなげていきたいと考えています。音声データには、お客様の生の声やニーズが多く含まれており、これらを分析・構造化することで、サービス改善や業務プロセスの見直しにつなげられる大きな可能性を感じています」(後藤さん)
さらに、AI技術の進化に伴い、応答品質そのものの向上にも期待を寄せています。
「将来的にはAIで自動応答するためのデータをさらに蓄積し、応答精度を高めていくことで、担当者が個別対応に割く時間を削減し、業務負荷の軽減と生産性向上を図りたいと考えています」(後藤さん)
「電話対応の当たり前」を変えることから始まった東急社宅マネジメントのDX。アイブリーとともに、電話業務の在り方そのものを問い直す取り組みは、音声データの活用という新たなフェーズへと進みつつあります。