IP電話とクラウドPBXの違いとは?仕組み・費用・選び方を解説

IP電話は、インターネット回線を使用して音声を届ける技術です。ガラケー時代にネット通信をするとパケット代(いまはギガと呼ばれている)がかかりましたが、通話にはパケット代ではなく電話料金が必要でした。
IP電話は、通話をそのパケットに変換することで、ネット通信と同じ仕組みで電話を実現できることから、急速に普及しました。
一方で、IP電話とPBXの違いや関係性が分かりづらいという声もよく聞かれます。
そこで本記事では、IP電話とPBXの違いや関係性について詳しく解説します。
1.IP電話とPBXの違い・関係性
IP電話と混同しやすい電話システムにPBXがあります。それぞれの仕組みやメリット・デメリットについて見ていきましょう。
IP電話の仕組み:電話のパケット化
IP電話は、従来の固定電話・アナログ電話をデジタル化し、インターネット回線を通じて音声を届ける技術です。利用者にとって「音声での会話ができる」という点は変わりませんが、必要な機器や配線など裏側の仕組みは大きく異なります。
IP電話では「パケット」と呼ばれるデータに変換することで、ネット通信と同じ仕組みで電話を実現します。そのため、データ変換に対応した電話機や端末、アプリなどが必要です。これらの電話機や端末が音声をデジタル化・パケット化して、LANケーブルや無線LAN、インターネット回線に向けて送信します。そして、データを受信した側が音声に再び戻す仕組みです。この技術はVoIP(ヴォイプ)と呼ばれています。
また、IP電話で相手を指定して電話をかけるには、指定された電話番号の端末を特定してパケットを届けなければなりません。この電話パケットを届ける役割を担うのがPBXです。PBXについては後ほど解説します。
IP電話のメリット
IP電話は、音声をデジタルデータに変換するため、音声データを保存したり、文字起こしをしたりできます。さらに、インターネットなどのデジタルデータ通信ネットワークと共用できるため、通話料が安い(3分あたり約8円)ことも特徴です。
IP電話のデメリット・注意点
IP電話には、東京「03」・大阪「06」などの市外局番を利用できるものや、050から始まる電話番号、LINEやSkype、Teamsなどアカウント単位で通話するものなどさまざまな方式があります。
そのため、導入にあたっては、どの電話番号・方式を利用するかを慎重に検討しなければなりません。特に、ビジネスの信頼性を重視する企業においては、市外局番から始まる電話番号を利用できるIP電話事業者を選択するとよいでしょう。
さらに、多くのIP電話は、フリーダイヤルや110番・119番などの緊急通報には対応していません。万が一の事態に備えて1回線のみ固定電話を残しておくなど、柔軟な対応が必要です。
PBXは電話端末同士をつなぐ交換機
PBXは電話機と電話機をつなぐネットワーク装置で、交換機と呼ばれます。番号を入力して電話をかけると、その電話は一度PBXに送信され、内線か外線かを判断します。
- 内線であれば、電話番号がどの端末のものかをPBXが把握しているため、その端末に電話をつないでくれます。
- 外線であれば、自社のPBXから電話業者のPBXに接続して、相手の電話番号の端末までパケットを届けてもらうように依頼します。
内線通話 外線を使わず、社内の電話と通話する機能 転送機能 受けた通話(外線/内線)を他の内線や指定した外線に転送する機能。設定に基づき自動で転送することもできる。 保留機能 受けた通話を保留(待ち状態)にする機能。 自動応答(IVR)機能 発信者が選択肢に従ってキー操作を行い、選択された操作に沿って担当者に自動接続する機能 発信者番号表示機能 発信者の電話番号をディスプレイに表示する機能 留守番機能 不在の場合に自動応答し、メッセージ録音する機能 参考:クラウドPBXとは?電話DX実現のヒントとなる特徴やメリットなどを解説! このようにPBXは、社内の電話をコントロールしつつ、転送やパーク保留、会話録音などの付加機能を追加する重要な役割を持ちます。
IP電話とPBXの違い・関係性
ここまで、IP電話とPBXの意味や仕組みについて解説してきました。両者の違いをまとめると以下のとおりです。
- IP電話
音声電話をデジタル化し、IPパケットとしてやり取りする技術、またはそれに対応した電話機やスマートフォンなどの端末 - PBX
IP電話のデジタル化された音声データと電話番号を受け取り、適切な相手に電話を転送することで2台の電話をつなげる機器・機能
郵便に例えて、IP電話が「手紙と住所」、PBXが「郵便局」の役割を持つと考えるとイメージしやすいでしょう。IP電話を利用するためには、その電話データを相手に届けるためのPBXが不可欠です。
2.クラウドPBXとは?仕組み・メリット・デメリット
近年、従来のPBXに代わって主流となっているのが「クラウドPBX」です。ここでは、クラウドPBXの仕組みやメリット・デメリット、そして混同されやすいIP-PBXとの違いを解説します。
クラウドPBXの仕組みとIP-PBXとの違い
クラウドPBXとは、ベンダーがクラウド上に設置したPBX(電話交換機)の機能を、インターネット経由で利用するサービスです。オフィス内に物理的な機器を設置する必要がなく、PCやスマートフォンにアプリをインストールするだけで、内線・外線通話や転送といった会社の電話機能が使えるようになります。
一方で、IP-PBXは自社オフィス内に専用の機器(サーバー)を設置する「オンプレミス型」のシステムです。社内LANを使って電話網を構築するため、セキュリティや通話の安定性に優れていますが、高額な初期費用と自社での運用・保守が求められます。
両者の違いをまとめると、以下のようになります。
比較項目 | クラウドPBX | IP-PBX(オンプレミス型) |
|---|---|---|
設置形態 | クラウド型(機器不要) | オンプレミス型(自社に機器設置) |
初期コスト | 低額(無料〜数万円) | 高額(数十万〜数百万円) |
導入スピード | 速い(数日〜1週間) | 遅い(数週間〜数ヶ月) |
運用・保守 | ベンダーに任せられる | 自社で対応が必要 |
拡張性 | 非常に高い | 機器の性能に依存 |
セキュリティ | ベンダーの対策に依存 | 自社ポリシーで高度に構築可能 |
詳しくは関連記事の「【図解】IP-PBXとクラウドPBXの違いとは?仕組み・費用・メリットを徹底比較」をご覧ください。
クラウドPBXのメリット
クラウドPBXには、従来の電話システムにはない多くのメリットがあります。
- コスト削減
機器の購入や設置工事が不要なため、初期費用を大幅に削減できます。 また、システムの保守・運用はベンダーが行うため、専門知識を持つ担当者を置く必要がなく、管理コストも抑えられます。
- 導入が迅速で柔軟性が高い
申し込みから数日〜1週間程度で利用を開始できます。従業員の入退社に伴う電話機の増減も、Web上の管理画面から簡単に行えるため、組織変更にも迅速に対応可能です。 - 場所を選ばず利用できる
インターネット環境さえあれば、テレワーク中の自宅や外出先など、国内外どこにいても会社の電話番号で発着信が可能です。これにより、多様な働き方を推進できます。 - BCP(事業継続計画)対策になる
PBX機能がクラウド上にあるため、地震や水害などでオフィスが被災した場合でも、電話システムは影響を受けずに稼働し続けます。従業員が安全な場所から電話対応を継続でき、事業の早期復旧に繋がります。
クラウドPBXのデメリット
多く のメリットがある一方、クラウドPBXには注意すべき点もあります。
- 月額費用が継続的に発生する
初期費用を抑えられる反面、サービスを利用している限り月額料金が発生します。長期的な視点で総所有コスト(TCO)を考慮することが重要です。
- インターネット回線に品質が依存する
インターネット回線を利用するため、通信環境が不安定な場合は音声品質が低下する可能性があります。安定した通信環境の確保が不可欠です。 - セキュリティ対策をベンダーに依存する
自社で細かなセキュリティポリシーを適用したい場合でも、ベンダーが提供するセキュリティレベルに依存する形になります。信頼できるベンダーを選ぶことが非常に重要です。
3.IP電話とクラウドPBXの料金比較
導入を検討する上で、費用は最も重要な要素の一つです。ここでは、クラウドPBXとIP-PBX(オンプレミス型)の一般的な費用相場を比較します。
初期費用の比較
クラウドPBXの初期費用は0円から数万円程度が相場で、キャンペーンなどで無料になるケースも少なくありません。
一方、IP-PBXは専用機器の 購入や設置工事が必要なため、数十万円から数百万円規模の初期費用がかかります。導入ハードルの低さでは、クラウドPBXに大きな優位性があります。
月額料金(ランニングコスト)の比較
クラウドPBXの月額料金は、1ユーザーあたり1,000円〜3,000円程度、もしくは数ID込みのパッケージで月額3,000円〜5,000円から利用できるプランが中心です。
IP-PBXの場合は、機器が自社の資産となるため月額のシステム利用料はかかりませんが、保守費用やライセンス費用として月額数千円から数万円のランニングコストが発生します。
費用項目 | クラウドPBX | IP-PBX(オンプレミス型) |
|---|---|---|
初期費用 | 0円〜数万円 | 数十万円〜数百万円 |
月額料金 | ・基本利用料(ID数に応じる) | ・保守費用 |
4.自社に合ったサービスの選び方と比較ポイント
自社に最適な電話システムを導入するためには、いくつかの重要なポイントを比較検討する必要があります。ここでは、失敗しないための4つの選定ポイントを解説します。
音声品質の安定性
ビジネスの電話において、クリアな音声品質は不可欠です。多くのクラウドPBXサービスでは無料トライアル期間が設けられています。導入前に実際の業務環境で複数の従業員が同時に通話し、音質や遅延に問題がないか必ずテストしましょう。また、品質保証制度(SLA)の有無も確認するとよいでしょう。
必要な機能の有無
自社の業務に必要な機能が備わっているかを確認します。IVR(自動音声応答)による電話の振り分け、コンプライアンス強化のための通話録音、顧客対応を効率化するCRM連携など、求める機能が標準で提供されているか、オプションで追加可能かをチェックしましょう。
セキュリティ対策
インターネット経由で利用する以上、セキュリティ対策は万全でなければなりません。通信の暗号化や管理画面へのアクセス制限機能はもちろん、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)などの第三者認証を取得しているかは、信頼できるベンダーを見極める上で重要な指標です。