BPO業界23年のプロが語る「AI」と「IVR」で電話対応はここまで変わる
コンタクトセンター・BPO業界で23年のキャリアを積み、現在は対話型AI SaaS「IVRy」で事業を統括する岩間悠太氏。労働集約型のビジネスからテクノロジー主導のビジネスへと身を投じた同氏は、企業の電話対応が抱える課題と、その解決策としての「AI」と「IVR」の可能性を知る人物です。
今回は岩間氏に、多くの企業が見過ごしがちなIVR導入の誤解から、導入を成功に導く具体的なノウハウ、そしてその先に見える経営変革まで、余すところなくお話しをお聞きしました。
IVR導入の“常識”はもう古い?専門家が語る驚きの効果
──岩間さんは、コンタクトセンター・BPO業界で23年という長いご経験をお持ちで、その後、IVRyにジョインされたと伺っています。まずは、これまでのキャリアと、SaaSビジネスに転身された背景についてお聞かせいただけますか?
岩間氏: 私は新卒でベルシステム24に入社し、そこから23年間、コンタクトセンター/BPO業界一筋でキャリアを歩んできました。営業から始まり、マネジメント、ソリューション開発、さらにはタイでの海外事業立ち上げや経営企画など、本当に様々な経験をさせていただきました。
長年、労働集約型のビジネスに身を置いてきた中で、少子高齢化による人手不足という大きな課題に直面し、テクノロジーの力でこれを解決できないかと考えるようになったのがSaaSに転身した大きな背景です。特にAIの進化は目覚ましく、これからの時代はテクノロジー主導のビジネスが不可欠だと確信し、45歳で転職を決意しました。
──まさに業界の表も裏も知り尽くしたプロフェッショナルが、テクノロジーの世界に飛び込まれたわけですね。そうしたご経験を持つ岩間さんだからこそ、企業の電話対応が抱える課題も深く理解されていることと思います。
人手不足というお話がありましたが、これは多くの企業が抱える「生産性向上」という経営課題に直結しますね。岩間さんから見て、企業の生産性を阻害する要因は何だとお考えですか?
岩間氏: 生産性向上のボトルネックは様々ですが、私が見てきた中で特に根深いのが「電話対応」です。多くの企業がDXを推進し、様々な業務をデジタル化しているにもかかわらず、なぜか電話だけがアナログな世界のまま取り残されている。これは、多くの企業が見落としている「DXの穴」とも言える状態ではないでしょうか。
──なるほど。なぜ電話がそれほどまでに生産性向上の足かせになるとお考えですか?
岩間氏: それは電話がもたらす「集中の中断」が最大の要因です。「一度中断した作業に戻るには平均で23分15秒かかる」というデータがありますが、これは決して大げさな数字ではありません。本来の業務に集中している時に電話で中断される、この繰り返しが従業員の生産性を大きく下げていると考えています。IVRを導入した多くの企業が、電話対応に費やす時間を4割から7割も削減できており、結果として残業時間を抑制できた、という事例もあるので、その効果は大きいのではないでしょうか。
──「電話対応を半分以上削減できる」というのは、具体的にはどのように実現するのでしょうか?
岩間氏: 代表的な例が営業電話のフィルタリングです。IVRで「営業のお電話は1番へ」と案内し、そこから先はメッセージの受付のみにする。これだけで、担当者が直接対応する営業電話は激減します。実際にこの方法で、月間で数十時間もの貴重な業務時間を創出した企業は少なくありません。創出された時間で、従業員は本来やるべきコア業務に集中できるわけです。
── なるほど、営業電話対策だけでも大きな効果があるのですね。そのほかに、従業員にとってのメリットはありますか?
岩間氏: 精神的な負担の軽減という点でも効果があります。IVRは、顧客からの過度な要求やクレームに対する心理的な緩衝材、つまりクッションとして機能します。ワンクッションあるだけで、従業員が受ける精神的負担は大きく軽減されます。これは従業員の定着率向上にも繋がり、長期的に見れば採用・教育コストの削減にも貢献するのです。
── 業務効率化だけでなく、従業員エンゲージメントの向上にも繋がる、と。一方で、顧客満足度の観点ではいかがでしょう。IVRを利用することで「繋がらないこと」が顧客のストレスになるとも言われますが。
岩間氏: それは重要なご指摘ですが、逆の側面もあります。顧客にとって、呼び出し音が鳴り続けるだけで繋がらない状態ほどストレスを感じることはありません。IVRがあれば、少なくとも一次対応は24時間365日可能です。「電話が繋がらない」という最悪の顧客体験を回避できるだけでも、IVRの価値といえるのではないでしょうか。さらに、顧客がオペレーターを介さずに自己解決できた場合、そのポジティブな体験は顧客満足度を向上させ、リピート利用に繋がるという好循環を生み出します。
── 確かに。「繋がらない」よりは「自動でも応答がある」方が良い、ということですね。コスト面についてもお聞きしたいのですが、契約などで発生しがちな「言った・言わない」問題の防止や、投資対効果(ROI)についてはどうお考えですか?
岩間氏: IVRの通話録音機能は、こうした主観的なトラブルを防止する上で極めて有効です。言質を取る、というネガティブな意味合いではなく、客観的な事実に基づいて顧客との良好な関係を築くための防衛策であり、むしろ信頼関係を強化するツールと言えます。
ROIに関しても、特にクラウド型IVRは低コストで迅速に導入できるため、多くの企業で導入後すぐに効果を実感されています。人件費の削減効果だけでも、月額利用料を大きく上回るケースは珍しくありません。コスト回収が非常に早いソリューションです。
失敗しないIVRサービスの選び方
IVRの導入効果は分かったが、数あるサービスの中から自社に最適なものを選ぶのは簡単ではありません。ここでは岩間氏に、失敗しないサービス選定のポイントを解説していただく。
──今のお話にも「クラウド型IVR」とありましたが、そもそもIVRを導入するには、具体的にどのような選択肢があるのでしょうか?
岩間氏: 大きく分けて、「ビジネスフォン付属機能の利用」と「クラウド型IVRの導入」の2つです。既存のビジネスフォンにも簡易的なアナウンス機能はありますが、複雑な分岐設定や他システムとの連携を考えるなら、機能が豊富で柔軟性の高いクラウド型IVRが圧倒的におすすめです。
──クラウド型と、自社で機器を保有するオンプレミス型では、どちらが良いのでしょうか?
岩間氏: かつては「カスタマイズ性ならオンプレミス、コストならクラウド」と言われましたが、今やその常識は通用しません。確かにオンプレミス型はセキュリティに優れるというメリットはありますが、数十万円以上の高額な初期費用と維持コストは大きな負担です。一方、現代のクラウド型IVRは、低コストで迅速に導入できるだけでなく、API連携などを通じて驚くほど柔軟なカスタマイズが可能です。もはや機能面でクラウド型が劣るということはなく、ほとんどの企業にとってクラウド型が最適な選択肢ではないでしょうか。
──なるほど、やはりクラウド型が主流なのですね。では、そのクラウド型IVRサービスを選ぶ際には、どのような点をチェックすればよいでしょうか?
岩間氏: まずは「必要な機能の有無」「操作性」「拡張性」という3つの基本要件を考慮すべきです。自社の課題を解決する機能が揃っているか、ITの専門家でなくても簡単に設定変更ができるか、そして将来の事業拡大にも柔軟に対応できるか。この3点を押さえることが第一歩です。
さらに具体的なチェックポイントとしては、「料金体系」「導入スピード」「連携機能」「分析機能」の4点が重要になります。
──その中でも、特に重視すべきポイントはありますか?
岩間氏: やはり「連携機能」ですね。CRMやSFAといった外部システムとの連携は、単なる電話の自動応答で終わるか、業務全体の自動化を実現できるかの分かれ目になります。最近ではSMS送信サービスとの連携も非常に重要です。
──SMS連携には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
岩間氏: IVRとSMSを連携させることで、口頭では伝えにくいURLや地図情報、手続きの詳細などをテキストで正確に送ることができ、顧客体験を飛躍的に向上させます。Eメール等に比べて到達率・開封率が圧倒的に高いSMSは、顧客を次のアクションへ誘導する上で最も効果的なチャネルの一つです。
導入効果を最大化する!現場で使えるガイダンス作成のコツ
優れたIVRサービスを選んでも、その設定、特に音声ガイダンスの作り方次第で効果は大きく変わる。岩間氏に、顧客を迷わせず、自己解決へと導くガイダンス作成の秘訣を伝授してもらった。
──サービスを選んだ後、次はいよいよ設定ですね。ただ、こうしたシステムの導入でよく聞くのが「導入したはいいものの、うまく使いこなせない」という声です。特にガイダンスの作成は、専門知識がないと難しいのではないでしょうか?
岩間氏: ご心配はよくわかります。ですが、心配は無用です。実は、効果的な電話自動応答は5つのステップで誰でも簡単に作成できます。それは「問い合わせの洗い出し」「対応方法の検討」「問い合わせの分類整理」「ガイダンス内容の作成」「ガイダンスの登録」です。この手順に沿って進めれば、必ず成果の出るガイダンスが作れます。
── なるほど、そのステップに沿えばいいのですね。実際に顧客が途中で離脱しない、使いやすいガイダンスを作るための具体的な秘訣があれば教えてください。
岩間氏: 秘訣は6つあります。「分岐を深くしすぎない」「選択肢を絞る」「問い合わせが多い項目から案内する」「専門用語を避ける」「簡潔な表現を心がける」「聞き取りやすい速度と間を意識する」。これらを徹底するだけで、顧客のストレスは大幅に軽減されます。特に、顧客が最も離脱しにくい最適な分岐設定は、階層を3段階以内、1階層あたりの選択肢を3~4つに絞り込むのがセオリーです。
── 非常に実践的なアドバイス、ありがとうございます。基本的なガイダンスだけでなく、例えば曜日や時間帯で転送先を変えるなど、複雑な設定も簡単にできるものなのでしょうか?
岩間氏: もちろんです。現在のIVRシステムでは、「平日の午前と午後」「営業時間内と営業時間外」といった条件で、電話の転送先を自動的に変更するような複雑なルール設定も、専門知識なしで直感的に行えます。
── それは心強いですね。ちなみに、まずはコストをかけずに営業時間外アナウンスだけでも試してみたい、という企業も多いかと思います。そういった場合の簡単な方法はありますか?
岩間氏: でしたら、多くのビジネスフォンに標準搭載されている「留守番電話機能」や「時間外アナウンス機能」を活用するのが第一歩です。追加費用なしで基本的なアナウンスは可能ですから、まずは今お使いの機器の機能を確認してみてください。そこから一歩進んで、より高度な分岐やSMS通知を行いたいとなった段階で、クラウド型IVRを検討するのが賢明なステップです。
コスト削減だけじゃない!IVRがもたらす真の経営インパクト
IVRの価値は、単なるコスト削減や業務効率化に留まらない。岩間氏は、その本質的な価値が「事業成長のアクセラレーター」としての役割にあると強調する。
── IVR導入のメリットについて、改めて整理していただけますか?
岩間氏: IVRがもたらすメリットは大きく5つあります。「人件費や導入・運用コストの削減」「24時間365日対応による機会損失の防止」「従業員の電話対応負担軽減による生産性向上」「『電話がつながらない』クレームの削減による顧客満足度向上」、そして「各種システム連携による業務全体の効率化」です。これらはすべて、企業の競争力に直結する重要な要素です。
── IVRの種類によって、メリットやデメリットも変わってきますよね?
岩間氏: その通りです。オンプレミス型はカスタマイズ性とセキュリティに優れるというメリットがありますが、やはり初期・維持費用が高額になる点が最大のネックです。一方、クラウド型は低コストで迅速に導入できる点が最大のメリットであり、現代においては機能の柔軟性も高いため、デメリットらしいデメリットは見当たりません。
── SMS連携は便利そうですが、送信件数によってはコストが割高になるのでは、という懸念もあります。
岩間氏: 確かに、送信件数に応じたコストは発生します。しかし、それによって得られる「機会損失の防止」や「オペレーターの工数削減」「顧客満足度の向上」といったリターンを考えれば、投資対効果は非常に高いと言えます。SMSがなければ電話で対応せざるを得なかった一件のコストを考えれば、むしろ割安だと判断できるケースがほとんどです。
あらゆる業界で成果が続々!IVR活用成功事例集
理論や機能だけでなく、実際の現場でどのようにIVRが活用され、成果を上げているのか。最後に、多様な業界における具体的な成功事例を岩間氏に紹介してもらった。
── 実際に、どのような業界でIVRは活用されているのでしょうか?
岩間氏: もはやIVRが活用できない業界はない、と言っても過言ではありません。あらゆる業界で驚くべき成果を上げています。例えば、ホテル業界では電話の約半数を自動化し、スタッフが接客というコア業務に集中できる環境を実現しています。物流業界では集荷依頼の対応を、飲食業界では営業電話の対応を自動化し、深刻な人手不足という課題に対応しています。
── 特定の業務に特化した活用例もありますか?
岩間氏: もちろんです。企業の代表電話で営業電話をフィルタリングする、医療機関で予約受付や発熱外来の問い合わせを自動化する、ECサイトで納期や配送状況の問い合わせに自動応答するなど、特定のペインポイントを狙い撃ちすることで、大きな効果を出すことができます。
── 顧客対応の品質向上に繋がった事例はありますか?
岩間氏: たくさんあります。保険代理店では、全通話録音・文字起こし機能により「言った・言わない」のトラブルを未然に防止しています。宿泊業では、多言語対応とSMS連携により、外国人観光客への案内をスムーズに行い、顧客満足度を大幅に向上させています。
── これらの事例から、導入を検討している企業が学ぶべきことは何でしょうか。
岩間氏: 大切なのは、これらの事例を単に真似るのではなく、自社のビジネスに置き換えて考えることです。「自社の業務の中で、最も頻度が高く、定型的で、従業員の時間を奪っているものは何か?」を特定する。そこが、AI IVRを導入すべき最初のポイントです。事例は、あくまで可能性のヒントに過ぎません。そこから自社ならではの「勝ちパターン」を見つけ出し、実行に移すこと。AI IVRは、そのための最も強力な武器になるはずです。