カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?事例と対策を詳しく解説

近年、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の増加が深刻な社会問題となっています。東京都では全国初のカスハラ防止条例が成立し、2025年4月に施行予定です。また、サービス業従事者の64.5%が過去1年間にカスハラを経験しているというデータもあり、企業各社が対策に乗り出しています。本記事では、カスハラの定義、具体例、企業の対策事例や法整備の最新動向について詳しく解説します。
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?
カスタマーハラスメントは、商品やサービスを利用する客が従業員に対して、正当な理由がない過度な要求をするなどの不当な行為や、暴行や脅迫などの違法な行為といった、著しい迷惑行為を指します。
カスハラとクレームの違い
カスハラとクレームは、いずれも顧客が商品やサービスに不満を表明する点で共通しておりますが、その主張の正当性により区別されます。具体的には、要求内容が妥当であるか、または言動が適切であるかといった基準で正当性が判断されます。
- クレーム:商品やサービスへの正当な不満や改善要望
- カスハラ:商品やサービスに対する度を越した要求や行動
企業はこの線引きを明確にし、適切な対応を行うことが重要です。
カスハラが企業や従業員に与える悪影響
カスハラは、対応する従業員個人の問題にとどまりません。放置すると企業全体の生産性の低下やブランドイメージの毀損といった経営リスクにもつながりかねません。
ここでは、カスハラが企業や従業員に与える主な悪影響について解説します。
従業員のパフォーマンスが低下する
カスハラは従業員の心身に強いストレスを与え、業務効率の低下を招く恐れがあります。
厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、顧客から著しい迷惑行為を受けた労働者の63.8%が「怒りや不満、不安などを感じた」と回答しています。また「仕事への意欲が減退した」と回答した人は46.1%と半数近くに達しました。
カスハラによるストレスは心身の不調を引き起こすこともあります。同調査では、顧客からの迷惑行為によって労働者の16.7%が「眠れなくなった」、5.7%が「会社を休むことが増えた」と回答しており、その影響が明らかになっています。
このようにカスハラによる精神的・身体的なストレスは、従業員のモチベーションやパフォーマンスに悪影響を及ぼします。
電話対応や謝罪で時間を浪費する
電話によるカスハラ対応は、相手との直接的なやり取りが続くため、対応が長時間に及ぶことがあります。結果として、理不尽な要求に答え続けたり、執拗な詰問に応じたりする必要が生じ、多くの時間を費やすことになります。不当な謝罪を求められる場面も少なくありません。
対応後も上司への報告や関係部署との連携、対応記録の作成など、事後処理に時間を取られます。本来行うべきコア業務にあてる時間が削られ、担当者だけでなくチーム全体の業務効率低下を招く要因となります。
ほかの顧客への対応が遅れる
カスハラ対応に人員や時間が割かれると、通常業務が圧迫されます。電話がつながりにくくなる、問い合わせへの返答が遅れるといった事態を招き、結果的にほかの顧客を待たせてしまいます。カスハラ対応で精神的に消耗した従業員が、ほかの顧客に対して普段通りのサービスを提供できなくなる恐れもあります。
本来であれば迅速に対応できたはずの顧客を待たせる状況は、顧客満足度の低下を招きます。サービス品質への不満から、顧客が離れてしまうリスクが高まることが懸念されます。
カスハラの種類
カスハラは、発生する行為の内容により、次の4つに分類できます。
1. 身体的カスハラ
暴力や物を投げつけるなど、相手に直接身体的な危害を加える行為を指します。
2. 精神的カスハラ
暴言、脅迫、侮辱、人格否定など、相手に精神的な苦痛を与える行為を指します。
3. 性的カスハラ
従業員の容姿や身体に関する不適切な発言や、性的要求など、性的な嫌がらせに該当する行為を指します。
4. 業務妨害
執拗な電話、虚偽のクレーム、営業妨害など、業務の遂行に支障を来す行為を指します。
カスハラが増加している背景
カスハラ(カスタマーハラスメント)が増加している要因は、現代社会の構造的な問題が複合的に絡み合った結果であると考えられます。
1. 顧客側の要因:ストレスと自己中心性
現代はストレス社会であり、経済的不安、人間関係の希薄化など、人々は多くのストレスを抱えています。「お客様は神様」という言葉を誤解し、自己中心的な権利意識を持つ顧客が増加傾向にあることも、要因の一つです。
2. 企業側の要因:人手不足と顧客至上主義
多くの業界で人手不足が深刻化し、従業員の負担が増加しています。その結果、顧客対応に十分な時間を割けず、トラブルが生じやすくなっています。また、過度な顧客至上主義は、一部の顧客の増長を招き、理不尽な要求を助長する可能性があります。
3. 社会全体の変化:SNSと規範意識
SNSの普及は、匿名での誹謗中傷や炎上を助長し、企業は悪評を恐れて、カスハラに毅然とした対応がとりにくくなっていることが考えられます。社会全体の規範意識の低下も、問題を深刻化させています。
カスハラは、顧客、企業、社会全体がそれぞれの立場で対策を講じるべき、現代社会の課題と言えるでしょう。
カスハラを取り締まる法律はあるのか?
現状、カスハラそのものを規制する法律はありませんが、暴行罪や脅迫罪、恐喝罪などで処罰の対象となる場合があります。例えば、脅迫罪が適用されると、最大で15年以下の懲役が科せられることもあり、カスハラ行為には慎重な対応が求められます。
カスハラによる行為が法律に抵触する可能性のある条例として以下のようなものがあります。
傷害罪
刑法204条:人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
暴行罪
刑法208条:暴行を加えたものが人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
脅迫罪
刑法222条:生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
恐喝罪
刑法249条1項:人を脅迫して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
刑法249条2項:前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項に同様にする。
未遂罪
刑法250条:この章の未遂は、罰する。
強要罪
刑法223条:生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
名誉毀損罪
刑法230条:公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する。
侮辱罪
刑法231条:事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は過料に処する。
信用毀損及び業務妨害罪
刑法233条:虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処する。
威力業務妨害罪
刑法234条:威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例に従う。
不退去罪
刑法130条:正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
企業がカスハラ対策を行う必要性
企業にとって、カスハラ(カスタマーハラスメント)対策は、もはや後回しにできない喫緊の課題です。単なる「従業員保護」の枠を超え、企業価値の向上、リスクマネジメント、そして持続可能な成長に不可欠な取り組みとなっています。
1. 従業員の心身の健康と安全を守る
カスハラは、従業員の心身に深刻な影響を及ぼします。精神的なストレス、不安、うつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などを引き起こし、最悪の場合、休職や離職につながることもあります。企業は、従業員が安心して働ける環境を提供する法的・倫理的責任があります。
2. 企業の生産性向上と離職率の低下
カスハラは、企業の生産性を低下させる大きな要因です。従業員がカスハラ対応に時間を取られたり、精神的なダメージでパフォーマンスが低下したりすることで、業務効率が悪化します。カスハラ対策を徹底することで、従業員は本来の業務に集中できるようになり、生産性向上が期待できます。また、安心して働ける職場環境は、従業員の定着率を高め、人材流出を防ぐ効果もあります。
3. 企業イメージと社会的評価の向上
カスハラ対策に積極的に取り組む企業は、「従業員を大切にする企業」「顧客と真摯に向き合う企業」というポジティブなイメージを社会に発信できます。これは、企業のブランド価値を高め、採用活動や投資家からの評価にも好影響を与えます。
4. リスクマネジメントの強化
カスハラを放置すると、法的トラブルに発展するリスクがあります。従業員から安全配慮義務違反を問われたり、損害賠償請求を受けたりする可能性もあります。また、SNSで悪評が拡散され、企業の評判が大きく損なわれることもあります。カスハラ対策は、こうしたリスクを未然に防ぐための重要な取り組みです。
カスハラ対策は、もはや「コスト」ではなく、企業の未来への「投資」です。積極的に対策を講じることで、従業員を守り、顧客との良好な関係を築き、企業価値を高めることができます。
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カスハラ対策集をみる具体的なカスハラ対策事例
ヤマト運輸
配達員への暴言や過剰な要求が増加したため、ヤマト運輸はカスハラ対策として対応マニュアルを作成し、社員研修や24時間対応の相談窓口を設置しました。カスハラ発言リストをもとに一貫した対応を可能にし、社員の安全意識向上を図っています。
日本航空(JAL)
客室乗務員への過度な要求を受け、日本航空は段階的な対応方針を策定。状況に応じて口頭での注意や書面通知など段階的に対応するルールを整備し、定期的な社員研修を通じて対応スキル向上に努めています。
効果的なカスハラ対策システムの導入
企業がカスハラ対策を効果的に行うためには、技術的なサポートが不可欠です。以下のシステムを導入することで、従業員の負担軽減や問題の早期発見が期待できます。
- 記録システム:音声や映像を記録するシステムは、顧客とのやり取りの正確な記録を残し、「言った言わない」のトラブルを防ぎます。また、証拠として活用することで、従業員を守るための法的な裏付けとなり、顧客の不適切な言動を抑制する効果も期待できます。
- IVR(電話自動応答システム):顧客からの問い合わせ対応を自動化することで、従業員が直接対応する前に過度なクレームやカスハラ行為を軽減できます。特定の質問や簡単な手続きはIVRで完結できるため、従業員が対応するケースを減らし、負担の軽減に貢献します。
- 顧客管理システム(CRM):過去のトラブル履歴や顧客の行動パターンを把握することで、トラブルの発生しやすい顧客に対し、事前に適切な対応準備が可能です。これにより、迅速かつ一貫した対応が実現し、顧客満足度の向上にもつながります。
- AIチャットボット:よくある質問や簡単な手続きにはAIチャットボットを導入し、24時間対応が可能な体制を整えることで、従業員の対応件数を削減します。営業時間外の顧客対応もでき、満足度を向上させつつ、カスハラリスクを抑えることができます。
これらのシステムを適切に導入し運用することで、従業員の負担軽減と健全な職場環境の維持が実現できます。企業にとって、効率的なカスハラ対策は、従業員のモチベーション向上や企業全体のイメージ向上に寄与する重要な施策といえるでしょう。
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、顧客による度を越した行為により、従業員が精神的苦痛を受け、企業の評判が損なわれる深刻な社会問題です。企業がカスハラ対策を積極的に講じることは、従業員を保護し、顧客満足度を向上させるために不可欠です。また、東京都では2025年4月にカスハラ防止条例の施行が予定されており、社会全体での認識が高まっています。企業がシステム導入や従業員教育などの具体的な対策を行うことで、健全な職場環境を構築し、持続的な成長を実現できます。
電話でのカスハラ対策ならIVRy(アイブリー)
カスタマーハラスメント(カスハラ)の問題の中には、自社で対応しようとしてもなかなかうまくいかず、従業員に負担がかかることも珍しくありません。また、自社で対応しようとしたことで、従業員が疲弊して退職してしまったり、精神疾患の発症、休職等につながったりする危険があります。
現場で対応する従業員と職場の環境を守るためにも、カスハラの問題について自社での対応が難しい場合は、クレーマーと従業員が直接コミュニケーションを取らなくてもよい体制を構築することが効果的です。
IVRy(アイブリー)では、カスタマーハラスメントによる離職を防ぐため、「AI電話」を活用した職場のハラスメントの予防・解決支援をご提供しております。
電話によるカスハラ対策には、こうしたテクノロジーを活用する方法が効果的と言われており、事前のカスハラ防止に役立つほか、万が一、法的措置を取ることになった際にも有効的です。
カスタマーハラスメントから従業員を守るため、ぜひIVRy(アイブリー)の導入をご検討ください。

IVRy(アイブリー)の機能
自動で音声録音される
IVRyではすべての電話を録音しており、なにかあった時には改めて聞き返して確認したり、万が一の際に証拠として利用することもできます。録音データはクラウド上で安全に管理されているため、いつでもアクセスできます。
通話の履歴は日時順、顧客順というように、用途に合わせて確認できるので、顧客ごとに電話の件数をチェックしたり、今日1日でどんな電話があったか、と振り返るなど、必要なデータをすぐに見つけることができます。
自動音声ガイダンスで相手を待たせない
IVRyは、かかってきた電話に自動で対応し、AIによる音声ガイダンスが流れる仕組みになっています。相手を長時間待たせることがないので、カスハラの防止になるほか、顧客にとっては利便性が高まることになり、顧客満足度向上も期待できます。
担当部署へ自動転送できる
IVRyは、用件に応じて適切な部署に電話を転送できる機能を備えています。発信者がガイダンスに従って番号を選ぶと、指定された部署に自動で電話が転送されます。
顧客にとっては待ち時間が短縮され、何度も同じことを繰り返し説明する必要がなくなるため、クレームやカスハラの防止にも効果的です。
顧客対応履歴を残してスムーズに対応
IVRyでは、かかってきた電話番号ごとに、自動的に電話履歴が記録されます。過去の通話履歴を見ながら対応できるので、つねにスムーズな対応ができます。誰が電話に出ても安定した対応ができるので、カスハラやクレームを防ぐのにつながります。