カスハラの定義とは?どこから「カスハラ」なのか解説

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「カスタマーハラスメント(カスハラ)」は、従業員を疲弊させ、離職や生産性低下を招く深刻な問題です。これはもはや現場だけの問題では�なく、企業全体で取り組むべき重要な経営課題といえるでしょう。本記事では、まずカスハラの定義と、その背景にある社会的な要因を正しく理解することから始めます。

近年、顧客からの過剰な要求や理不尽な言動、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が深刻な社会問題となっています。カスハラによる従業員の疲弊は、生産性の低下や離職につながるため、企業にとって看過できない問題です。

本記事では、カスハラに対する具体的な撃退法から、従業員を守るための組織的な対策、さらには法的措置やAIを活用した最新の撃退法まで、網羅的に解説します。

カスハラとは

「お客様からのご意見」と「カスハラ」は、明確に異なります。

正当なクレームは商品やサービスへの改善要求であり、企業が成長する機会にもなり得ます。一方で、カスハラは従業員の尊厳を傷つけ、安全な労働環境を脅かす理不尽な要求や言動を指します。

厚生労働省のマニュアルでは、「要求内容に妥当性がない」または「要求内容が妥当でも、その実現手段が社会通念上不相当な言動である場合」にカスハラに該当する、と定義されています。具体的には、人格を否定する暴言、威嚇や脅迫、長時間の拘束、土下座の要求といった行為が典型例です。

カスハラが増加している理由

近年、カスハラが社会問題として注目される背景には、複数の要因が考えられます。

一つは、「お客様は神様」という考え方の歪んだ解釈です。この言葉が顧客の権利を過度に主張する口実となり、従業員に対して理不尽な要求を正当化する風潮を生み出してしまいました。

また、SNSの普及も大きな要因といえます。誰もが簡単に情報を発信できるようになった結果、企業や従業員への不満が瞬時に、そして広範囲に拡散されるリスクが高まりました。これを武器に、過剰な要求や脅迫まがいの言動に出るケースも少なくありません。

カスハラと正当なクレームの違いを正しく見極めることは、適切な初動対応の第一歩です。ここでは、両者の違いを明確にするための判断基準をご紹介します。

正当なクレームとカスハラの判断基準

項目

正当なクレーム

カスタマーハラスメント(カスハラ)

目的

商品・サービスの問題解決、改善の要求

嫌がらせ、金銭の要求、自己の不満のはけ口

要求内容

事実に基づき、社会通念上、妥当な範囲内

事実無根、過剰な金銭・物品の要求、実現不可能なサービスの強要

言動・態度

冷静かつ論理的

暴言、脅迫、威嚇、侮辱、人格否定、長時間の拘束、SNSでの誹謗中傷

正当なクレームは、企業が真摯に耳を傾け、サービス向上の糧とすべき貴重な意見です。しかし、その境界線を越えたカスハラに対しては、組織として毅然と対応する必要があります。

カスハラの具体的な事例

カスハラは、さまざまな形で現れます。ここでは、現場で起こりがちな具体例をいくつか紹介します。自社で起こりうるケースを想定し、対策を検討する際の参考にしてください。

  • 暴言・名誉毀損・侮辱: 「バカ」「役立たず」といった人格を否定する言葉や、他の顧客の前で「この店は詐欺だ」などと大声で叫び、企業の社会的評価を貶める言動。
  • 威嚇・脅迫: 「家に火をつけるぞ」「お前の家族も知っているんだぞ」などと、従業員やその家族に危害を加えることを示唆して恐怖を与える行為。
  • 時間拘束: すでに解決策を提示しているにもかかわらず、何時間も電話を切らなかったり、店舗に居座り続けたりして、従業員の業務を妨害する行為。
  • 過剰な要求: 商品の代金以上の金銭を要求したり、本来は提供していないサービスを強要したりするなど、社会通念上、明らかに度を越した要求。
  • プライバシー侵害: 従業員の名札を無断で撮影したり、個人情報を執拗に聞き出そうとしたりする行為。


カスハラという理不尽な攻撃から従業員を守るには、その場しのぎの対応ではなく、組織としての一貫した基本方針に基づいた対策が不可欠です。ここでは、カスハラを撃退するための基本的な考え方と、いざという時に取るべき行動のポイントを解説します。

カスハラ対応する際のポイント

初動対応

カスハラが発生した際の初動対応は、その後の事態の展開を大きく左右します。重要なのは、決して一人で抱え込まず、組織として対応することです。

まずは、相手の言動や要求内容を冷静に記録しましょう。スマートフォンでの録音や、防犯カメラの映像は、後々客観的な証拠として極めて重要になります。

そして、速やかに上司や担当部署に報告し、情報を共有してください。初期段階で組織的な対応方針を決定することが、従業員の精神的負担を軽減し、事態の悪化を防ぐ鍵となります。

冷静な状況把握と感情コントロール

怒りをぶつけてくる相手を前に、冷静さを保つことは容易ではありません。しかし、感情的に反論してしまえば、相手をさらに刺激し、事態を悪化させるだけです。

まずは相手の主張に耳を傾け、何に対して不満を感じているのか、その事実関係を客観的に把握することに努めましょう。ただし、相手の言い分を全て鵜呑みにする必要はありません。

あくまでも目的は問題の解決であり、相手の感情に引きずられないという強い意識を持つことが、冷静な対応につながります。毅然とした態度を保ちつつも、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。

理論や基本方針を理解していても、いざ激しい剣幕の相手を目の前にすると、頭が真っ白になってしまうものです。ここでは、現場ですぐに使える具体的な手法と、近年注目されるテクノロジーを活用した新しい撃退法をご紹介します。

相手の話をよく聞く

相手が興奮している場合、その根底には「自分の言い分を分かってほしい」という強い承認欲求があります。まずは、相手の話を遮らず、最後まで真摯に耳を傾ける姿勢を示しましょう。

相槌を打ちながら、「〇〇ということでお困りなのですね」と相手の言葉を繰り返すことで、「あなたの話をきちんと聞いています」というメッセージが伝わります。これにより、相手の興奮が和らぎ、冷静な対話への道が開けることがあります。

理不尽な要求には毅然とした態度を

傾聴は重要ですが、理不尽な要求や、企業の規定を逸脱した要求に対して、安易に譲歩する必要は一切ありません。むしろ、曖昧な態度は相手に「もっと要求すれば通るかもしれない」という誤った期待を抱かせ、事態を泥沼化させる原因になります。

「大変申し訳ございませんが、弊社の規定により、そのご要望にはお応えいたしかねます」というように、できないことは明確に、しかし丁寧に断ることが重要です。その際、個人の判断ではなく、「会社のルールとして」対応していることを伝えることで、相手の攻撃が担当者個人に向かうのを防ぐ効果もあります。

記録と証拠の確保

カスハラ対応において、客観的な記録は、後々の法的な手続きなども含め、企業と従業員を守るための最も強力な武器となります。

  • 何を記録するか:発生日時、場所、相手の氏名(わかれば)、具体的な言動(暴言などは可能な限り一言一句)、要求内容、対応経緯などを、時系列に沿って5W1Hで記録します。
  • どう記録するか:通話の自動録音機能は必須です。対面の場合は、スマートフォンの録音機能や防犯カメラ、ウェアラブルカメラなどを活用しましょう。相手の同意がない録音でも、裁判で証拠として認められるケースは多いです。

カスハラ行為に適用される法律

カスハラの態様によっては、以下のような犯罪が成立する可能性があります。

犯罪名

具体的な行為の例

威力業務妨害罪

大声で怒鳴り続ける、机を叩く、長時間居座るなどして、店の業務を妨害する。

脅迫罪

「殺すぞ」「家に火をつけるぞ」などと、生命や身体、財産に害を加えることを告知する。

強要罪

土下座や謝罪文の提出を強要する。

不退去罪

店から退去するように要求されても、正当な理由なく居座り続ける。

名誉毀損罪

SNSなどで「あの店員は泥棒だ」などと嘘の情報を流し、社会的評価を低下させる。

これらの行為に直面した場合は、迷わず警察に相談しましょう。

損害賠償請求の方法

カスハラによって従業員が精神的苦痛を受けたり、対応によって業務に支障が出たりした場合、民法上の不法行為として、加害者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

請求できる損害には、従業員が精神科などを受診した場合の治療費、精神的苦痛に対する慰謝料、カスハラ対応に要した人件費などが含まれます。

損害賠償請求を行うには、カスハラ行為の存在を証明する客観的な証拠(録音データや記録メモなど)が不可欠です。まずは弁護士に相談し、内容証明郵便で請求するのが一般的ですが、相手が応じない場合は、民事訴訟を提起することになります。

カスハラは、個々の従業員のスキルだけで防げるものではありません。組織全体で「カスハラを許さない」という文化を醸成し、従業員が安心して働ける体制を構築することが最も重要です。

対応マニュアルの整備

誰が、いつ、どのような状況に遭遇しても、一貫性のある適切な対応がとれるよう、具体的な対応マニュアルを整備し、全従業員に周知徹底することが不可欠です。

マニュアルには、カスハラの定義、具体的な対応フロー、報告・相談の手順、エスカレーションの基準などを明確に記載します。特に、「暴言があった場合は上長に交代する」「同じ要求が30分以上続いたら対応を打ち切る」など、次のアクションに移るための具体的な基準を設けておくことが、現場の担当者が迷わず行動するために重要です。

従業員向け研修の重要性

マニュアルをただ配布するだけでは、いざという時に役立ちません。ロールプレイングを取り入れた実践的な研修を定期的に実施し、マニュアルの内容を体で覚える機会を作りましょう。

研修では、カスハラの具体例を基に、顧客役と従業員役に分かれて対応をシミュレーションします。これにより、冷静な初期対応や、相手を刺激しない断り方、段階的な警告のフレーズなどを、実践的に習得できます。また、管理職には、部下から相談を受けた際の傾聴スキルや、被害を受けた従業員のメンタルケアといった、マネジメント層向けの研修も別途必要です。

カスハラへの対応は、その場を収めることだけが目的ではありません。被害を受けた従業員のケアと、経験を次に活かすための組織的な学習が、真の解決には不可欠です。

従業員のメンタルケア

カスハラが従業員の心に残す傷は、目に見える以上に深い場合があります。被害を受けた従業員に対して、上司や会社が「あなたは何も悪くない」というメッセージを明確に伝え、孤立させないことが何よりも重要です。

まずは、じっくりと話を聞き、その苦痛に共感する姿勢を示しましょう。必要であれば、産業医やカウンセラーといった専門家への相談を促し、会社として費用を負担するなど、具体的なサポート体制を整えておくことが求められます。心身の不調が続くようであれば、一時的に顧客対応から外したり、休養を推奨したりといった配慮も必要です。

AI電話を活用したカスハラ撃退法

近年、AI技術を活用した電話自動応答サービス(IVR)が、カスハラ対策の新たな切り札として注目されています。

IVRを導入すると、感情的なクレームや悪質な電話が、従業員に直接つながる前の段階でフィルタリングできます。例えば、「ご用件に応じて番号を押してください」という自動音声案内は、用件を明確化させると同時に、相手に冷静さを取り戻させる時間を与える効果が期待できます。

また、全通話の自動録音や、特定の番号からの着信をブロックするブラックリスト機能なども、従業員をカスハラから守る上で非常に有効です。

悪質なカスハラは、もはや単なる迷惑行為ではなく、刑法に触れる犯罪行為や、民法上の不法行為に該当する可能性があります。従業員と会社を守る最終手段として、法的措置という選択肢があることを知っておくことは、相手に対する強力な抑止力にもなります。

東京都の事業者ならカスハラ奨励金を適用できる場合も

東京都内の中小企業は、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策に関するマニュアルを整備した上で要件を満たすことで、奨励金(40万円)の受給を申請できます。

また、カスハラ対策として電話自動応答の「アイブリー」を対象プランを新規契約すると、受給要件のひとつである「AIを活用したシステム等の導入」として認められる場合があります。

この奨励金は「カスタマーハラスメント防止対策推進事業企業向け奨励金」と呼ばれるもので、事業者に東京都カスタマー・ハラスメント防止条例による措置を浸透させることを目的としています。

対象となる事業者は「常時雇用する従業員が300人以下の都内中小企業等」で、その他いくつかの要件を満たす必要があります。また、カスハラ対策に関するマニュアルの整備し、実践的な取り組みとして「録音・録画環境の整備」、「AIを活用したシステム等の導入」「外部人材の活用」のいずれかを実施している場合に限られます。

取り組みのひとつである「AIを活用したシステム等の導入」として、「アイブリー」の対象プランの新規契約を検討してみてはいかがでしょう。

まずは「アイブリー」のサービス資料をご覧いただき、担当者にご相談ください。

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※奨励金の支給可否は、東京都の審査に基づき決定されます。申請要件の詳細は必ず公式サイトをご確認ください。

参考:東京都 カスタマーハラスメント防止対策推進事業企業向け奨励金

アイブリー第2編集部のプロフィール画像

アイブリー第2編集部

(株式会社IVRy / アイブリー第2編集部)

アイブリー編集部です。電話に関する様々な情報をわかりやすく解説します。 【アイブリーとは?】 アイブリーは1日100円から利用できる電話自動応答サービス(IVRシステム)です。自由な分岐設定と自動応答・SMS返信・電話の転送(リダイレクト)・録音機能を活用し、営業電話・顧客からの問い合わせ・注文・予約等の様々なシーンを自動化します。また、営業時間内と営業時間外でルールを変えることや、電話履歴の確認や顧客登録機能等、多数の便利な機能が存在しています。

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